株式会社 キタムラ

従業員数 約5,000人
障がい者数合計 145人
身体障がい

70人

知的障がい
5人
精神障がい

70人


 カメラのキタムラやスタジオマリオなどの店舗を全国に展開する株式会社キタムラでは、多くの障がい者が店舗で雇用されている。雇用している多くは身体障がいと精神障がいのある者であり、障がいのない人も障がいのある人も同じ空間で共に働くという、とても理想的な働き方を実現している。「障がいのある人もない人も関係なく働ける職場を作らなければならない」という社長の思いを実現するために、店舗を中心とした障がい者雇用の仕組みが考えられている。今回は人事総務部に所属し、障がい者雇用を担当する今野氏からお話を伺った。


理念や目的を共有し、責任を持って対応する


 障がい者雇用を進めるうえでは上層部の障がいに対する理解は欠かせない。同社では「障がいのある人もない人も関係なく働ける職場を作らなければならない」との思いを持っており、「意識を変えて行こう」と全社に通達している。その際に、各店舗で責任をもって雇用・育成していくために障がい者雇用に関する人件費を本社から店舗に変更した。また、これまではハローワークからの応募の窓口を各店舗の店長としていたが、店長の交代時などに応募対応がスムーズにできない場合などがあり、窓口をエリア長に移行し、エリア長が店長と連携することでトラブルの改善を行った。エリア長は店長に引き継ぐ際に、障がい者雇用の認識に不足があれば都度フォローを行う。その後は店長が障がいのない人の応募者対応と同じように障がい者の面接を行い合否を出す。これにより、勝手に送り込まれるのではなく、店長が携わり、雇用の判断をするので、責任を持って対応することができる。店長の相談窓口はエリア長が行い、場合により人事総務部の担当もサポートを行う。同社では、店長に雇用判断、責任、人事権が任され、自由裁量と責任が伴う仕組みとなっている。
 問題が発生し、店長との会話が成立しないときには第三者に入ってもらう。第三者を社内の人間にすると、1対2でご本人が不利と感じられることもあるので、中立的な立場の支援機関に入ってもらえると、納得も解決も早くなると考えている。支援機関の方だと、障がい者の方も社内の人間よりは話しやすく、愚痴も言いやすなり、その後で支援機関から話を伺えれば、雇用側も改善できるので、不満が大きくなる前に手が打てると考えている。
 離職者が出たときには店長にアンケートを取っている。他で正社員としての雇用が決まったので退職されるという前向きな嬉しい報告もあるが、フォローができる体制を整えるのが難しいなどの意見や改善要望が寄せられている。今後は、「障がいについてどこまで聞いていいのか、どこまで話していいのかが分からない」「ガイドラインがほしい」という要望に応えるツールや体制の必要性を考えている。


個々の特性や強みを活かし、業務を通じて成長につなげる


 身体障がいでも、目に見えてわかる疾患ではない精神障がいでも、まず「何ができるか」「何が難しいか」「どんな配慮が必要か」を本人に伺って、どの業務から行っていただくかを決めている。けれども、あまりにも配慮要求が多い場合は、できる業務が限られてしまうので雇用を含めて本人と話し合っている。
 今野氏が所属する人事総務部で、精神疾患をもちセルフコントロールを身に付けた方(以下、Aさん)が雇用されている。Aさんは自分専用のチェックシート(K-STEP(※))を使用し、心身の状態を把握して、毎日、朝と昼に状態報告(心身の状態を共有)を1分程度で行っている。気分が落ち着いているのか、眠気があるかなど心身の体調を伝えるだけでなく、台風や天気、休日の過ごし方や睡眠の話など他愛のない話をするコミュニケーションの場にもなっている。日々の状況の把握、コミュニケーションが深まることで、互いに遠慮することなく、相談しながら今後の業務や雇用の話ができる。この状態報告を毎日行うことで、その状態にあった業務を相談しながらコントロールをすることができるので、互いに変な気を使わずに進められている。
 セルフコントロールができることにより、個々の特性や強みを活かしながら、その状況でのパフォーマンスを最大に発揮してもらえる。また、うまくいかなかったり、失敗したりした時は報告さえしてもらえばOKとして不安を取り除いている。報告後、Aさんがリカバリー対応できそうなら一緒に確認しながら行い、難しければ上長が対応する。後日、どんな対応をしたかのフィードバックと失敗しないための改善を行っている。たとえば、社内連絡時に添付ファイルを間違えた場合には、文章を付け加えてAさんにもう一度メールを送もらったりしている。状況にもよるが、すべてを上長が引き受けるのではなく、ご本人ができることは行ってもらうようにしている。


本人の気づきとモチベーションを高める


 Aさんは、K-STEPを学び自身が安定して活動できる方法を訓練し、身につけている。自分の状態を把握・管理し、適切に報告・相談することを基にコミュニケーションを図り、リカバリータイムの確保をしている。Aさんが今の自分のエネルギー残量を数値で報告するため、上長は数値の上下に合わせて気にかけることができる。Aさんは、疲れがひどい時はリカバリータイムの中で仮眠や音楽などを聴いて気持ちを落ち着かせることを実施している。はじめは周りがどれだけ許容してくれるか不安があったというが、部署内への説明や、部署外の人が隣に座った際にはリカバリータイムについて説明し、一声かけることで理解を得ている。この自身の状態把握の報告の場とリカバリータイムの確保の社内理解が、ご本人のモチベーションを維持していると捉えられる。
 同社の事務所はフリーアドレスで誰がどこに座ってもいいという環境。Aさんは、いつもは周りに人が少ない窓際に座ることが多い。しかし以前に、席がなく周りに人がいる中央に座ったことがあった。すると定期的に行っている面談の時に「いつも通りやってはいたけど、バリバリ仕事をする人のなかではリカバリーが取り難かった」という話がご本人からあった。そのため、端の窓側の席をあらかじめ取るなどの工夫をしている。面談の場があって話が出た。こちら側としては分からないことなので、ご本人から言える機会や環境をつくることでモチベーションを維持できている。


柔軟であるための「あそび」をもつ


 配慮として、話を聞くことを念頭に置いている。同じ症状名でも個人差があるため、その個人に合わせてできる範囲で対応を考える。苦手な業務があれば、それ以外の業務の比重を高くしたり、精神のバランスの関係で朝の出勤が難しければ、時間帯の契約を変更したり。ご本人と話をしつつ対応策を検討している。
 K-STEPや支援機関との三者面談など、企業内の仕組みにとらわれることなく、様々なツールや支援機関を利用して障がい者の雇用を促進している。社内ではアンケートを実施するなど、多様な声を取り上げ、形にする仕組みがある。そして各店舗の自由裁量と責任が円滑に進むようエリア長を相談窓口とするなど、柔軟性を持ち合わせている。


「ツールがあることでコミュニケーションしやすい」


 今野氏は、入社して1ヶ月目は、場所に慣れたり、社風や仕事内容を把握したりする時期で、引っかかっているものを解決・改善していくのが2か月目と考えている。6か月ほど経てば、仕事の周期を把握できたり、お互いに状況を把握できたりするようになるので、相談し合える関係になれると思っている。疑問に思っていることや嫌だと感じている事を話すにはコミュニケーションを積み重ねていかないと難しいと感じている。K-STEPのようなツールがあることで状態の把握だけでなく、話すきっかけになり、コミュニケーションがとりやすいと実感している。


「本人のセルフケア力」「現場のサポート力」「外部の支援力」の理想的な割合


「本人のセルフケア力:4」「現場のサポート力:4」「外部の支援力:2」

 今野氏は、Aさんが所属していた就労移行支援事業所の方から「本人のセフルケア力:4」、「現場のサポート力:4」、「外部の支援力:2」が理想的な割合という話を聞き、共感している。同社の事務所での障がい者雇用に関しては、雇用の窓口として今野氏が面接を行うものの、雇用後はそれぞれの部署に任せて、何かあれば上長から連絡が来るようになっている。関わりすぎると、部署内での関係が作れなくなるため、できるだけ介入しないようにしているとのこと。

※K-STEP :就労移行支援事業所「働くしあわせJINEN-DO」と川崎市が共同開発したもので、精神障がい者など体調管理に課題のある方の就労定着を図るためのプログラム。主に「セルフケアシート」を用いて「体調を見える化」し、1-2分で心身の状態を報告し「報告のルーティン化」をはかることで、職場内の孤立を防止しコミュニケーションを促すものである。