株式会社エルアイ武田

従業員数 108人
障がい者数合計 90人
身体障がい
(うち聴覚障がい)
(うち肢体障がい)
(うち内部障がい)

33人
26人

6人
1人

知的障がい
39人
精神障がい

18人

2019年3月現在   


 同社は武田薬品工業株式会社の特例子会社である。1995年の設立時の社員数は34名からスタートし、今では100名を超えている。現在は、事務を含めて8つの部門(グループ)があり、印刷関連業務、包装補助業務、経費精算関連や書類の電子化、複写といった事務業務、ビル清掃や塵芥業務、宿泊施設の清掃及びベッドメイク業務、洗濯業務、廃棄書類の回収・仕分け業務等を行っている。エルアイ武田のLは労働を意味するLabor、Iは愛であり、働く障がい者を愛する会社として、多くの障がい者が働いている。
 「働くということは、障がいのあるなしは関係ない。働いてお給料もらうからにはプロだという意識を持ってもらいたい。『障がいがあって苦手な事があるけれども、自分なりにこういう工夫や努力をしている。その上で配慮してほしい』ということが大事だと思う。『なんでもかんでも障害があるから無理です』では会社の中で働いていけないと思うんです」と話すのは、設立以来24年間、同社の障がい者雇用に携わってきた人材開発室室長の大森氏。この想いは設立当初からぶれていない。


個々の特性や強みを活かす


 ここでは、入社する前に約3ヶ月の実習をしてもらい、お互いに一緒に働けるかを確認し合う。大森氏は実習に入る人たちに「63歳(同社は63歳が定年)まで良いところばかり見せていける?ありのままの姿を見せて、それであなたが工夫しなければいけないこともあるし、こちら側が配慮しなければいけないこともあるかもしれない。隠すことがいいことではなく、特性や性格も含めて見せてもらって、どうやったら長く働き続けられるか一緒に考えていきたい」と伝える。一人ひとりと向き合い、本人の特性を受け入れながら、お互いに努力と工夫をしながら長く働き続けることができるか。入社してからのミスマッチを防ぐための実習を長い時間と労力をかけて行うことで、お互いが納得して仕事に就けるようにしているのである。また、採用の際は公私混同を避けるため、生活面のサポートをしてくれる支援機関がサポートしてくれる体制をつくり、連携を取りながら進めている。


本人の気づきとモチベーションを高める


 大森氏は、「本人が働き続けたいと思う気持ち」が最も大切と考えている。こういうことがしたいとか、これができたから次はこういうことがしたいとか、働いて自分ができたことによって満足感や重要感が得られることが大事。私たちはあくまでも、そうなれるようにサポートできるようにしているとのこと。
 そうなるためには、まず「自分を知るということ」「自分と他者の認知の仕方が違うということ」を理解していく必要がある。そこを理解しなければ、いつまでたっても自分と他者との間にすれ違いが残る。自分でナビゲーションブックを作ってもらい、働くという経験を通して、自分と向き合い、他者とも向き合いながら、ナビゲーションブックをブラッシュアップしていく。それが自身の気づきとなり、自分のやりたいことも見えてくるのである。


理念や目標を共有し、チームで仕事をする


 同社では、仕事をするチーム単位にリーダーがいて、主にそのリーダーが現場の全てを担う。障害のあるなしにかかわらず、入社したらまず3年間は現場で仕事をする。その中でリーダーになる力のある者は周りから信頼され、障がい者もリーダーになる道が開かれている。リーダーは現場でチームメンバーと密にコミュニケーションを取りながら、仕事を進める。受け入れる姿勢をリーダーが示し、何でも話せるような信頼関係を築けるように気を配る。
 リーダーは、極力、チーム内の特定の人を叱ったり褒めたりすることはしないように配慮している。チーム全体を褒め、チームとしてのバランスを考え、どのメンバーにも同じように気にかけて行動し、現場が上手く回るように振る舞うことが求められる。
 チームは障がいのある人のそれぞれの特性や強みを組み合わせながら仕事を遂行していく。完ぺきな人はいないので、力を合わせて仕事を仕上げていくことで、感謝と思いやりを学んでもらう。大森氏は「自分ができることで他者を助けると、その人からではなくても、回り回って助けてもらえる。また、助けることで自分が学び直し、もっとできるようになる。助けてもらったら『ありがとう』と言う。感謝と思いやりがあれば、チーム内外の関係性がつくられ、良い職場に繋がる」と24年間言い続けてきたそうだ。今では、それを大切にする文化が醸成され、忙しいとき、困った時はチーム同士で相互に手伝い合うことも自然にできている。


柔軟であるための「あそび」をもつ


 時間有給という社内制度をつくり、1時間から有給を取れるようになった。これで、精神障がい者が辛い時に、少しの時間から休みを取りやすくなった。続けて休んでしまうと、なかなか会社に来られなくなる場合が多いので、体調に合わせて柔軟に有給を取ることはズルズル休んでしまう状態にならないように配慮している。一般的に社内制度を変えることはなかなか難しいが、同社は障がい者のニーズに合わせ、合理的配慮という形で働き方改革を実行した。


「それぞれのリーダーが育つように」


 会社全体が100人を超えてきたため、会社としてもリーダーが担う役割は大きく、重要であると考えており、リーダーの育成に力を入れてきた。働きやすい環境を整えるのは会社の仕事だが、リーダーは現場のメンバー一人ひとりのことを意識し、メンバーの不調やちょっとしたことに気づけることが大切と考えている。そのため、リーダーが考え方を整え、それぞれが情報共有していけるような研修を定期的に実施している。そこは、リーダーに会社の理念や考えを伝えて、それを受けてどのように行動しようとしているのか共有し、お互いに確認する場でもある。
 現場の業務マニュアルも作ったが、これはリーダーのためにつくったものであり、まずはリーダーがそれを理解し、基本となるやり方を決め、他のチームメンバーに伝えた上で、臨機応変に対応していけるようにしている。また、SST(ソーシャルスキルトレーニング)を取り入れて障がい者のコミュニケーション能力はもちろん、リーダー自身のコミュニケーション能力が上がることを大きく期待した。リーダーはまず現場を知ること、その上で一人ひとりを知ることが大切。「○○障がいだから○○の仕事」と決まっているわけではないから、「その人自身をしっかり見ていけるように」とリーダーには日々伝えているとのこと。


「本人のセルフケア力」「現場のサポート力」「外部の支援力」の理想的な割合


「本人のセルフケア力10」

本人の働きたいという気持ちがしっかりしていれば、おそらく働き続けることができる。もちろん、外部からの支援も大事だが、いくら外部が支援しても、本人にその気が無ければ意味がない。あとは困った時に相談できる相手や場所があればよい。ただ全くなくても大丈夫な人もいるので、やはり本人次第だと思う。


「彼らに教わった」


 24年間、障がい者雇用に携わった大森氏は、インタビューをした9月末で定年を迎えた。「私自身、彼らと働くことにやりがいや生きがいを感じているんですよ。彼らはみんな同じなんです。彼らからもらっているものはたくさんある。同じ人として見ることで自分にプラスになることも山程ある。障がいのある人は私たちの弱いところを正直に出しているだけ。彼らに教えてもらいました」そう笑顔で話してくれた大森氏は、これからも障がい者と働いていける職場を自分でつくった。24年の想いと実践が引き継がれる。