有限会社 川田製作所

従業員数 19人
障がい者数合計 5人
身体障がい 2人
知的障がい
(うち発達障がい)
3人
1人
高齢者/65歳以上
(うち障がい者)

7人
2人

外国の方 3人

「障がい者雇用のその先へ。自分らしく働ける・成長できる職場」

 電機・電子部品のプレス加工・金型製作を主とした精密プレス加工の会社である。従業員19名のうち、5名の障がい者、65歳以上の高齢者が7名(うち障がい者2名)、外国の方3名と非常に多様性に富んだ職場となっている。2018年には経済産業省が主催する「新・ダイバーシティ経営企業100選」に選定された。職場には文字に頼らず写真で示す指示書や知的障がい者のための仕事の結果報告メモがあるが、そういった障がい者雇用の経験とノウハウを外国人労働者や他の労働者にも応用して、すべての人が働きやすい職場を日々追求し続けている。副社長である川田氏は、「障がい者雇用におけるマネジメントの苦労もリーダが成長するためのきっかけにしてもらいたい。外国人労働者のエネルギーに学んで個々の成長に生かしてもらいたい」と多様性のある職場を「成長とチャレンジの場」と考えていた。


個々の特性や強みを活かす


 入社して3年目の佐々木氏は発達障がいがある。事務職で一般募集したときにエントリーし、面接の時に障がいについて自ら説明をしてくれた。明るくて、資格もとって勉強熱心、コツコツできるタイプという良いところがたくさんあったため、川田氏は採用を決めた。佐々木氏は言ったことはしっかりやってくれる力があり、忘れることは少ない。彼女の強みに着目しながら、苦手なところを改善していった。例えば、コピー用紙がなくなってきたら適当に注文するという曖昧なことをやめた。いつやるか、毎月いつ、毎週いつと決めて、佐々木氏が、能動的に仕事ができるように他の人がパソコンでタスク登録をして、タスク管理と実行を佐々木氏が行う。いつやるか、いつまでにやるかは全て登録してあるので彼女は自分で仕事ができる。
 その他、「2、3枚、早めに印刷して」とリーダーから頼まれることがあったので、毎週のリーダー会議の最後に、彼女も含めて「次から、いつまでに◯枚印刷して」というようにしようとやり方を教えたところ、コミュニケーションが大幅に改善された。先日、外国の方が曖昧なお願いをしたそうだが、そのときは佐々木氏が「いつまでに、どうしてもらいたいか言ってください」と自ら質問し、上手く対応できたそうだ。障がい者本人と周囲が、障がい特性に応じて互いに協力しながら、仕事ができるように工夫していた。


本人の気づきとモチベーションを高める


 聴覚障がいの方は、生産性で言うと社内でトップの数字を挙げており、少し肌寒い日でも汗だくになりながらやっている。「その姿を周りが見る、その人が挙げた(生産性の)数字を見る。いい人の数字を褒める意味で言う事があるんですけど、いい影響を与えているのがその人の価値になっていくので、その人の強みを生かして、会社の価値にしていくのが長く働くうえで大事になってくると思う」一生懸命に働く姿を周りが見ることで、何かの気づきを得たり、モチベーションが高まったりもする。その相互作用を川田氏は大切にしているのだ。


理念や目標を共有し、チームで仕事をする


 1人の作業が多く、職場の一体感が分かりにくいので、組織的な共有をするところに課題があった。そのため、小集団活動という、社員を3チームに分けて朝の活動をするようになった。その活動は、3か月に1度チームで話し合い、チームで何をするかを決め、3か月の間、それを毎朝チームで行う。やったことを発表して、全員で投票し、最優秀チームには表彰状と、お小遣いを少し渡す。これを6年ほどやっているが、チーム活動をすることで、チームとしての一体感やリーダーとしての成長が見られるようになった。また、発表会で1人ずつ発表する機会があることで個々が成長したり、リーダーだけでなく現場から「こうすればもっと良くなるのでは」というアイディアが出てきたりするようになった。


失敗しながら成長に向けて挑戦する


 ある知的障がい者が3ヶ月のトライアル雇用をするときに数値目標を設定し、結果的にその数字が達成できるかということを本人とも共有して臨んだが、数字が伸びなかった。8時間集中することに課題があり、午前は調子がいいが、午後は遅くなってしまう。高校を卒業したばかりで仕事に対する考え方や仕事とは何かということを理解できていないようだったので、ジョブコーチと課題を共有しながらやっていた。2ヶ月半後の会議でこのままでは厳しいという話を本人にしたら、その言葉で本人のやる気スイッチが入ったようで、分からないことがあったら2階にいるリーダーに聞きにいっていたが、彼は少しでも早く言って戻ってこようとしたようで、階段で転んで足を強打して病院に行くことになった。数日休んで少しずつ働きながら治していこうということになったが、数字は目標達成までにはあと一歩及ばず。
 彼がこの会社で働きたいと強く思っていたこと、また彼を教えていたリーダーが彼の持っている人柄に惹かれ、もう少し結果が出るまで指導したいと申し出てくれたこともあって、トライアル期間をもう一度やることになった。そして、見事、彼が成長して目標達成できたのである。社会人としての自覚を芽生えさせながら、本人の成長を導く職場環境が整っていたからこその成功であった。


「その人の可能性を信じる」


「できるか、できないかではなく、なにか可能性があると信じて取り組むことが大切」と川田氏。そして、信頼関係については、まず自分が信頼すること。
 具体的には、月に1回、本人、川田氏、リーダーで会社の成長と個々の成長を一致させるために、1ヶ月の目標と先月の目標の振り返りについて話をしている。大切にしているのは人と比べないこと。あくまでも、自分と比べるために生産性(数字)を4ヶ月の表にして、褒めるための根拠として、また、コミュニケーションのツールとして利用していた。


「本人のセルフケア力」「現場のサポート力」「外部の支援力」の理想的な割合


「本人のセルフケア力:4」「現場のサポート力:5」「外部の支援力:1」

会社は先輩の集まりなので、30歳くらいまでは会社がある程度サポートしなければいけない。外部の支援はいざとなったときのもの。年配になってくると、セルフケアの成長の意味合いが20代と違う。それまでに成長してきているので、もっと成長してほしいと言うよりもベテランの強みを発揮していくことであると思っている。


佐々木氏のメッセージ


 大事なことは人間は誰でも個性があるので、個性を大事にすることが大切で、誰かと比べる事は個性ではありません。(こう思うようになったのは)自分が障がいを持っている事に気づいてからです。それは中学生の頃です。子供の頃は他の人とは違うとは分かっていたんですけど、障がいとは知らなかったです。周りから「障がい者」と言われたことはあったので、「私ってホントに障がい者なの?」って親に聞いて伝えられました。(その時は)ショックでした。他の人と違うのが嫌だなと思っていました。高校に入ってからは個性を大事にしてくれる学校で、自分の個性を大事に出来るようになりました。