有限会社 アップライジング

従業員数 30人
障がい者数合計 3人
身体障がい 1人
精神障がい 1人
難病 1人
就労支援事業所の施設外就労 22人

 有限会社アップライジングは、中古タイヤ・ホイール専門店で、主に買取・販売を行っている会社である。本店に入ると、通常の中古タイヤ・ホイール店とは思えない内装である。通常は販売のタイヤ・ホイールを並べたり、関連機器を並べたりするが、本店は入口ガラス張りの応接ルームと猫ルームがあり、その横にキッズルーム・多目的トイレ、そして授乳室まであり、お客様が快適に過ごせる空間を作り出している。さらに、無料レンタル会議室やドライブスルー買取など、お客様目線で様々な取り組みを実践している。2017年には第3回ホワイト企業大賞の人間力経営賞を受賞した。社訓には、「1.常に謙虚で人に感謝し、人から感謝される人間であれ、2.自分を許し、他人を許せる人間であれ、3.現状に甘えず、一生学び続ける人間であれ、4.磨け、磨け自分を磨け、タイヤとホイールと自分を磨け」と会社の従業員全てが順守すべき4つの行動規範が示されている。障がい者雇用では、身体障がい者、精神障がい者、難病の3名の直接雇用を行っているが、アップライジングでは障がい者の雇用だけではなく、高齢者や元薬物中毒者、前科がある人、ひきこもり経験者、ベトナム人の外国人技能実習生も雇用しており、様々な人と共に働く環境がある。彼らを「わけあり」社員・人材と称するが、単なる人助けではなく、一人ひとりと向き合い、それぞれに働く環境を整え、それぞれが戦力として働くという経営戦略を実践している。齋藤社長の話を聴きながら、障がい者の雇用をどう考えるかではなく、その先の「人として働くこととはどういうことなのか」という一歩先の発想を得た気がする。


個々の特性や強みを活かす


 アップライジングでは、才能を見限らないこと。見限らずに見出すことを念頭に障がい者を含めた「わけあり」社員・人材に向き合う。だから、障がい者だから「タイヤの洗浄」の仕事と決めつけずに、手先が器用だからホイールからタイヤを外す「はがし」の仕事に挑戦させる。「はがし」の仕事ができるが、対人関係で接客は苦手という個人の特性に対しては、輸出するタイヤ集めたタイヤ置き場で「はがし」の仕事に専念できる環境を整える。出会う障がい者たちは、自分の仕事について笑顔で話してくれる。


本人の気づきとモチベーションを高める


 「個々の特性や強みを活かす」で述べたように、一人ひとりの才能を見限らず、見出すことから、障がい者に限らずアップライジングの社員のモチベーションを高める工夫としては「やりがい」を持たせることである。アップライジングで実践していることは、一人ひとりの声を聞くこと、一人ひとりが自分の声を出せる環境を整えるよう意識していることである。それが、一人ひとりの「やりがい」を聞き出し、個々に合うよう仕事や環境を整え、モチベーションを高めている。


理念や目標を共有し、チームで仕事をする


 アップライジングでは、何でも言える環境を意識している。過去などをさらけ出せる、聞いたことのないことも言える、そんな安心できる職場を意識している。アップライジングのジャンパーを着て身軽に歩く齋藤社長は、「やります!」「やりたい!」を素直に言える環境が大事といい、さらに自分が社長っぽくないところが良いと話す。実際に、障がい者の施設からグループで働きに来ている当事者の方から「えーっ。社長さんなんですか?」と訊かれていた。
毎朝20分の朝会を各店舗で行う。ディスカッションをする。30~40代の幹部が優秀で、皆の考えを聞く力を持っている。彼らが、社長や専務の考えや何でも言える環境を意識してつくっているのである。社員がうまく伝えている環境が店舗の中で作られている。


失敗しながら成長に向けて挑戦する


 社訓「2.自分を許し、他人を許せる人間であれ」の人を許すこと。自分も過去にそうだったが、「わけあり」社員・人材の方々は過去に「どん底」を経験している方が多い。けれども、「今に見てろよ」や「恨む」「憎む」は良くない。ネガティブの時間がもったいない。皆で仲良くやって過ごした方がいい。すごく難しいけれど日々社員たちに伝える。社訓にある「人を許す、自分を許す」を言い続ける。失敗しながら成長に向けて挑戦するが、その時の気持ちの持ち様をポジティブにするためにも、「人を許す、自分を許す」という過程があり、新たな成長に向けて挑戦できるのではないだろうか。
 「わけあり」の人と、なしの人とを分けていない。障がい者にもきちんと伝える。防げたミスの反省を本人に直接言う。これは、どんな話でもできる環境を作るからこそ、伝えられる信頼関係が根底にあり、誰でも失敗しながら成長することを期待しているからこそ伝えるのである。


柔軟であるための「あそび」をもつ


 「個々の特性や強みを活かす」にも述べた、才能を見限らないで見出すことを「諦めない」ということ。たとえどんな人でも、その人自身がアップライジングで働くことを通して「本気で変わりたい」のであれば、全力で支援する。諦めない。アップライジングには、それが根底にある。齋藤社長が大事にしていることは、「アップライジングファミリー」のこと。どんな社員であっても、社員を家族の一員として見ている、だから「ファミリー」。社員一人ひとりを大切にする社長の思いが溢れているように感じられた。
 毎月1回、約20人の会議を行う。お菓子を食べながら5時間の会議をする。齋藤社長が皆の意見を好きなように言える工夫を凝らしているため、社員一人ひとりが思う提案を言い、いつまでに達成するかを提示する会議となっている。5時間にも及ぶ会議だが、社員たちはこの会議を楽しみにしているらしい。そして、この会議からの発案が会社の売り上げにもつながっている。


「人をゆるし、自分もゆるす」


 相手に変な緊張感を持たせないことが信頼につながっているのかもしれない。社訓の中に「自分をゆるし、他人を許せる人間であれ」というのがある。自分のミスも反省は必要だが、切り替えようというのがある。「人を許すというのも、みんなミスするじゃないですか。それでお客さんを怒らせることもある。でも自分もやる可能性はある訳で。だったらそのミスも許そうよ。人をゆるし、自分もゆるすというのがここに定着しているのかなと思う」
 ここには、社訓の1つである「人をゆるし、自分もゆるす」という文化が醸成されていた。自分もミスをして他者を怒らせるかもしれない。でも相手も何かミスをして周りを怒らせるかもしれない。そういうお互い様があるわけだから、お互いにゆるし合おう、そうやって人との繋がりはできている。そして、他者をゆるせるように、自分で自分をゆるしてあげる。


「本人のセルフケア力」「現場のサポート力」「外部の支援力」の理想的な割合


「本人のセルフケア力:5」「現場のサポート力:5」「外部の支援力:0」

すべてを本人と一緒にやっているので、うちに外部の支援はない。