認定 NPO法人 Switchi スイッチ・センダイ

職員数
(うちサービス管理責任者)
(うち就労支援員)
(うち職業指導員)
(うち生活支援員)
7人
1人
2人
1人
4人
利用者数合計 42人
精神障がい
42人
一般就労への移行率 80%

 スイッチ・センダイでは、主に精神疾患を持つ方に焦点を当てて障がい者雇用の支援、障害者総合支援法における就労移行支援事業所を運営している。通常は2年以内に障がい者を一般企業に就職させる就労移行支援だが、スイッチ・センダイでは1年で就職を目指している。2017年度は6か月で60%、1年間でほぼ90%の就職率を示している。スイッチ・センダイを立ち上げるまでに、何か所か施設見学を行い、法人のコンセプト、ダイバーシティやディーセント・ワークから必要なものを厳選し、Individual Placement and Support(個別職業紹介とサポート:IPS)(※)の要素を取り入れていく過程を辿っている。現在、法人としては、スイッチ・センダイ等の就労移行支援事業所の他に、自主事業としてボーダー層やユース層の子ども若者系の就職支援の事業を立ち上げている。今回は、最初に立ち上げたスイッチ・センダイでの精神疾患を持つ方を対象とした一般企業への就職支援のお話を小野常任理事から伺った。


個々の特性や強みを活かす


 スイッチ・センダイで大事にしていることは、ご自分がしたいことを優先して支えること。自分で考えて決断する主体性である。通所開始時でも就職の応募をしたいというのであれば、スタッフは全力で応募支援をする。ご本人の選択を尊重して、それに必要な情報提供はかなり意識して取り組んでいる。「そのランクを求めるのであれば、ここまで言えないと難しい」「それに受かる人は大体こういう資格を持っているが、どうする?」など、現実的な情報提供をしながら取り組んでいる。本人の働きたいという気持ちが一番の強みと考え、希望を活かしながら就職できるようにすることで、次にある本人のモチベーションを高めていると言える。
 また、スイッチ・センダイでは、精神障がい者を対象にするというよりは、精神疾患を持つ方を対象としているため、「精神障がい」という言葉を使っていない。通所者は、クリニックに通院している方も多く、今まで普通に就職をクローズで頑張ってきたがダメだったという方も多い。そのような方は、どうしたら安心して働き続けられるのかということを自身の悩みとしてもっている。そのため、今後のキャリアビジョンを考える部分の支援をすることが一番のニーズになる。そこから手帳を取得し、オープンを選択する方もいれば、クローズで再就職する方もいる。最初から手帳をお持ちの方でも、最低週20時間以上の障がい者雇用に満たない時間を希望する人もいて、そのような希望の方の多くは、クローズで就職し、自信をつけるための一歩として始める方もいる。常に「自分」がどうしたいのかに、焦点を向けられるよう、自己理解を深め、特性や強みを活かせるように関わることを大切にしている。


本人の気づきとモチベーションを高める


 スイッチ・センダイでは、ご本人の自己理解を中心としたセルフケアやコミュニケーション、就職活動などのプログラムを実践している。ご自分の得意・不得意や今の自分を知ること、ご本人たちのこれからをつなげていくことを提供している。この自己理解が進むと、自己対処能力が上がり、大崩れしなくなるため、効果がある。ご自身が自分を知ることで、就職へのモチベーションを維持している。
 本人たちは情報に関しても固定観念が強いため、ご本人の興味関心はどのようなことにあるのか、好きならこういうこともいいのではないかなど、面接を通していいところをフィードバックする、企業実習を通して他者のフィードバックを受けるなどを重要視している。ご本人の興味による面接や実習を通して本人の気づきと就職へのモチベーションを高めている。


理念や目標を共有し、チームで仕事をする


 冒頭でも述べたが、2年間で就職をさせるという就労移行支援事業所であるが、スイッチ・センダイでは、1年で就職を目指すことを利用者にも最初に話をしている。そのため、スイッチ・センダイは、ご本人もスタッフも「今就職する人に注力するところ」であると、共有され理解されている。その多くは半年から1年以内で就職をしている現状がある。
 多くのプログラムはおおよそ3か月で一巡する。そのプログラムを繰り返しつつ、企業実習を取り入れ、自信をつけ就職活動を行うため、その多くは半年程度で就職する。そして、繰り返しながら、移行事業所の利用期間と自分の希望の追及やスキルを磨く、見切りをつけるかつけないかなどご本人が選択できるようスイッチ・センダイで体験を提供しつつ、決定をご本人に任せている。


失敗しながら成長に向けて挑戦する


 基本的に、わざわざ「福祉サービスを使いたい」と思って来所する理由があり、1人では就職活動が難しいのでは、1人では次は失敗しないで働けないのではないかと、やはり自分に何か不安や足りないものを抱えている。しかし、本人はそういう不安感などを含めて「やっぱり次はちゃんと働きたい」という強い意志を持っている。そうであると考え、スイッチ・センダイは自己点検と1人で働き続けるために必要だと思うことを提供している。利用者がスイッチ・センダイに来るまでの失敗や不安を気にしていたとしても、スイッチ・センダイによる提供を通して就職にチャレンジしたいと思ってもらうことを目指している。


柔軟であるための「あそび」をもつ


 「今就職をする人」に注力するスイッチ・センダイでは、就職後は毎月1回の定期的なメールを送り、就職した者が集まるOB/OG会の連絡をしている。もし、欠席する場合は、近況を一筆書いてもらって、返信してもらい、それをトリアージする体制を行っている。
 また、2018年4月から障害者総合支援法で新たに就労定着支援が示され、定着支援に関する事業所ができたが、それまでは定着支援に明示がなかったため、期間を決めずにフォローアップの対応をしていた。継続のために、仕事のニーズに対応できるように仕事を推奨している。必要に応じて対応するという柔軟さを持ちながら、継続の視点で仕事をみる視点を持っている。


「やりたいことを優先してやれるように」


 本人がやりたいことを優先してやるようにしている。応募するのであれば全力で応募するし、本人の選択を尊重して、それに必要な情報提供はかなり意識している。ただし、「その会社のランクを求めるということはどういうことか」「採用される人はこういう資格を持っていると思うが、どうする?」と自分の履歴の中でカバーできるかを真剣に考えられるよう情報提供はしっかりするようにしていた。


「本人のセルフケア力」「現場のサポート力」「外部の支援力」の理想的な割合


「本人のセルフケア力:3」「現場のサポート力:6」「外部の支援力:1(家族0.5+支援機関0.5)」

本人が3であっても本人自身は全力であり、長く働き続けるための環境は企業次第というところが大きいのではないかと考えている。


※Individual Placement and Support(個別職業紹介とサポート:IPS)とは、アメリカのバーモンド州で立ち上げられた精神障がい者を対象に個別で職業紹介とサポートを行う方法である。科学的根拠をもつ実践の一つであり、IPSの8原則(①一般企業への就職を目標とする②働きたいと希望すれば全ての精神障がい者が対象である③就労支援の専門家と医療保健の専門家でチームをつくり支援する④仕事に関して本人の好みや希望が優先される⑤社会保険など経済的な相談に関するサービスを提供する原則⑥本人が働きたいと希望すれば迅速な就職支援サービスを提供する⑦利用者の好みに基づいて支援者は企業関係者との関係づくりを行う⑧就職後のサポートは継続的に行う原則:Dartmouth IPS Supported Employment Center2016、Dartmouth Psychiatric Research Center2011)を基に就職支援を行えば就職することができると言われている。

【参考資料】
Dartmouth Psychiatric Research Center (2011) Practice principles of IPS supported employment. Dartmouth Psychiatric Research Center, Available from:
(http://www.dartmouth.edu/~ips/page48/page79/files/ips-practice-princi-ples-002880029.pdf. 2014.10.08)
Dartmouth IPS Supported Employment Center2016;(http://sites.dartmouth.edu/ips/about-ips/ips-practice-priniciples/2014.06.23.)