福岡市にある福岡物流センターには、約40名の障がい者と外国人留学生・労働者も一緒に働いており、多様な人々が働く職場となっている。業務内容は、主に配達商品のピッキング作業、商品補充作業、出荷コントロール作業、梱包、検品等の作業、そして、伝票発行や館内放送等の事務所内作業である。採用は、主に特別支援学校の実習を通して行われており、そこで個々の特性や性格、仕事に対する意欲、本人が興味のある仕事等を確認し合っている。
約8年前から障がい者雇用をスタートしたが、その時は、そもそもなぜ障がい者を受け入れるのかということを周囲に説明してきた。「これから人口減で働き手は不足していく。障がい者雇用を拡大することは1つの解決策になる。彼らを戦力にする方法を見つければ、企業と障がい者とは互いに支え合える関係になれるはずだ。責任は私がもつから挑戦したい」と何度も説明し、納得してもらったと語るのは、副センター長である坂井氏。社員には特別支援学校へ見学に行ってもらい、理解を深められるようにしてきた。現在では、障がい者の8年間の職場定着率が約80%と非常に高い。
「やってみて判断するのが正しい。『やらせないで』と言われてもやってみるとできたこともたくさんある」とのことで、入社は特別支援学校3年生のときの3回の実習を経て決まる。中には2年生から5回の実習を経て入社した人もいる。実習期間中に個々の特性や性格、興味のある仕事、できる仕事を確認する。その中で仕事を覚えてもらい、入社時には多くの仕事ができる状態となっている。
ある人の実習の様子についてみてみよう。センター内は広いので、ピッキング作業をする棚にたどり着けないという課題があった。本人を観察、本人へ質問した時の回答から判断すると、棚の見分け方が理解できないことが分かったため、見分け方のレポートを作り、それに対処することで、次回の実習ではたどり着けるようになった。数が数えられないときは学校と協力して電卓を持ち込んでできるようにしたり、体力が持たないようであれば、6時間勤務から時間を長くしていき、家でもウォーキングをしてもらって、長く働けるようにしたりと、様々な成長がみられたようだ。
実習中に生じた課題については、本人の特性をふまえながらどのように対応すべきかを学校側とレポートで共有し、そこを共に解決していくという仕組みを取っていた。この一連の指導の中でも、本人の特性と仕事に対する興味はしっかり見ていて、ピッキング作業以外にも他の仕事もやってもらい、本人の希望を聞いて進める等、本人のモチベーションを保てるように配慮や声掛けをしながら進めていた。
坂井氏は「本人が目標を持たないと続けられない」と考えており、そこに重きをおいている。そのため、毎日、コミュニケーションノートをつけてもらっている。目標を自分で考えて書いてもらい、それができているか確認をする。出来ていたら褒め、できなければ「明日はこうしよう」とアドバイスする。他者と比べるのではなく、あくまで「過去の自分に勝つ」ことが大切と話す。特に、入社後しばらくはこのやり取りに力を入れているそうだ。
その他にも、実習中に本人たちにこの会社への志望動機を書いてもらい、仕事が嫌になったときに本人に見てもらって、そのときの気持ちを思い出してもらうこともしている。また、定期的に本人、会社、支援機関、家族、学校が集まり、支援会議を行うが(入社1ヶ月後、その後3ヶ月に1回、1年目は合計4回、2年目2回、3年目1回実施)、会社に愛着を持ってもらうために、自分が所属するチーム名を作ったり、結果を共有し、過去の自分にどう勝っているのか、負けているのかを自分で発表したりもしている。
本業(物流事業)の中にある仕事をしてもらうことにもこだわっている。本業と結びついていると障がい者が自分は会社から頼られていると感じやすい。それが仕事へのモチベーションとプライドにも繋がっているのである。
社内のチームワークを保てるように、また、チーム内に新しい空気が入るように、毎年障がい者を雇用すること、複数人を同時に採用することがポイントとなっているようだ。ここでは、後輩の面倒は1つ上の先輩が面倒を見ることになっている。同期同士でも助け合ったり、お互いに怠けないように牽制したりと適度な緊張感の中で働ける環境ができている。同社では、外国の留学生や労働者にも働いてもらっているが、障がい者雇用のノウハウをそのまま応用できたので、特に問題もなくスムーズにスタートできたとのこと。
障がい者雇用をスタートしたときは、障がいがない人から「(障がい者を)甘やかしすぎ、さぼっている」という苦情が入ってきた。その度に「さぼっている訳ではなく、その人なりの全力なんだ」ということを小さく言うしかなかったとのこと。ただ、見た目では動作がゆっくりに見えるが、実際に生産性を数字で見ると、他の人とそれほど変わらないので、様々な方法で彼らが一所懸命頑張っていることを伝えていった。その後も障がい者が入る度、同じ場で働く人たちに、「本人の趣味」「弱み」「こういうタイプの人であること」、「接し方」等を丁寧に説明し、何か問題があったときにはすぐに対応していくうちに、トラブルも苦情も少なくなったようである。今では自然な形でお互いにフォローができているとのこと。
ただ、定期的に人間関係のトラブルは起こるので、坂井氏は、その時にしっかり話を聞く、トラブルとしてあがってきたときにすぐに対応する、必要があれば仕組み等も変えることで、現場が納得感を持ちながら仕事ができるようにしていた。
坂井氏はネットワークの大切さを説く。「障がい者本人が中心となり、それを取り囲むように支援の輪があれば、自立もできるし長く働けると思う。ただ、会社は病院の先生と繋がることさえ難しい。障がいのない人は本人が自分でやるが、障がいがあるとサポートがないと難しい。医療共同体と支援共同体という考え(図参照)で進めていくべきで、両者が重なる部分をどう強化していくのか、その中の会社は本人の真横にあるべきだと考えている」
さらに、会社で障がい者をサポートしている人は、周りの社員に理解されず孤独になっていることも多いと言う。その人たちが、同じ志をもって横のネットワークで繋がっていくことも障がい者雇用において重要であると教えてくれた。
「本人のセルフケア力:8」「現場のサポート力:1」「外部の支援力:1」
本人のセルフケア力とは、「本人が働きたいと思う意思」と考えている。入社前に本当に働きたいのか、意思確認をする、その後、その気持ちを持続させていくことが最も大切という意味で8。働きたいと社員に思わせられる会社にする必要があり、本人のその気持ちを持続させていけるようにサポートする、それが会社としての1。働く前の実習のときから「働きたい」と思ってもらえるような実習にしなければいけない。
令和4 年度
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